Memo.103 (2019 Best Albums)

40.Official髭男dism「Traveler」
[Japan, Pop]
4人組ピアノポップバンドによるメジャー1stフル。Brasstracksライクなサックス使い (彼ら的には吹奏楽?) をみせた「宿命」や「Rowan」ではillicit tsuboi氏をアレンジ/ミックスに招いたりと、ポップスフィールドで現行トレンドを取り込んでチェックせざるをえないように仕向ける手法はここ数年の星野源を彷彿とさせる。大ヒット曲「Pretender」も収録し今年のJ-Popを代表する一枚になったことは否めない。

Traveler

Traveler

 

39.ベゲfastman人「WELCOME TO BLACKTOWN」
[Japan, HipHop]
Represent 北九州な8人組ヒップホップクルーによる1stフル。黒崎商店街の懐かしい景色が写り込む「眠者 -MINJA-」や「fastmanは人見知り」を筆頭にオールドスクールでスモーキーなビートと癖になるキャッチーなフックが印象的。北九州から小倉ではなく黒崎というBLACK TOWNから出てくるローカル中のローカルなところが今っぽいのかもしれない。

WELCOME TO BLACKTOWN

WELCOME TO BLACKTOWN

  • ベゲfastman人
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2444

 

38.LambC「Green is the new Black」
[Korea, Soul]
現行トレンドを汲んだメロウなサウンドに定評のある韓国のプロデューサーによる最新EP。昨年ヒットした「Turnin'」の収録EPでAbsenceシリーズが完結し、新プロジェクトとしてリリースされた4曲に新曲を加えパッケージされた本作。年明けにリリースされたレムシ印な「Childish」に飛びきりキャッチーな新曲「Fallin'」、彼ら史上最もダンサブルな「Treat You Right」まで安定のクオリティで仕上げている。本国よりも日本の方が彼らを支持しているようにも感じるほどフィットしているためいずれは日本での活動も期待したい。

Green is the new Black - EP

Green is the new Black - EP

  • LambC
  • シンガーソングライター
  • ¥764

 

37.Leven Kali「Low Tide」
[UnitedStates, Soul]
カリフォルニアのシンガー レイヴィン・カリのデビュー作。先行カットされていたメロウな「Nunwrong」、Syd (The Internet) をゲストに迎えた「Do U Wrong」、ダンサブルな「Cassandra」やかつて代名詞として呼ばれていたゴスペルファンクの延長線にある楽曲もありとても充実した一枚。彼はかつてEXO「Tempo」やNCT U「The 7th Sense」などSM関連の楽曲も手掛けていたようでびっくり。

Low Tide

Low Tide

  • レヴィン・カリ
  • R&B/ソウル
  • ¥1935

 

36.Tajyusaim boyz「スリルドライブ
[Japan, HipHop]
月曜から夜ふかしに出演も話題を呼んだゆとり世代型多重債務者集団による1st EP。一部でバイラルヒットした「リボで買う。」を筆頭に、給料日にいくつもの金を使いはたす「給料日くらい いいじゃない。」、友達にお金を催促する「もしもし、どうすか?」、TWICEに貢ぐ「TWICE」などコミカルな曲が並ぶが、助手席に幽霊がいるというテーマで進む「スリルドライブ」はさすがに予想外のアプローチすぎてわらった。MVも30万再生されるなどある程度売れてきている気がするのではやくリボ払いを脱出してほしい。

スリルドライブ - EP

スリルドライブ - EP

  • Tajyusaim Boyz
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1530

 

35.VaVa「VVORLD」
[Japan, HipHop]
CREATIVE DRUG STOREのラッパーVaVaの2ndフル。昨年リリースされた3枚のEPから彼の代名詞ともなったサックス使いの「現実 Feelin' on my mind」、彼の人気を決定づけた昨年末リリースのEPから「Virtual Luv (feat. tofubeats)」「Hana-bi (feat. BIM)」「星降る街角 (feat. 角舘健悟)」などを収録した万全の一枚。EPからの収録曲が多いことやサックス使いビートが大半を締めるため "EPサイズのスター" という意見に納得せざるをえない部分もあるが細かいことは置いといて次の一手に期待したい。

VVorld

VVorld

  • VaVa
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2037

 

34.Jacob Collier「Djesse Vol. 2」
[UnitedKingdom, Pop]
ひとり多重録音したカバー動画で話題となったロンドンのマルチプレイヤー ジェイコブ・コリアーによるDjesseと銘打たれた4部作プロジェクトの2作目。先行で公開されていた「Moon River」カバーは彼の十八番なアプローチでまさにワンマンオーケストラと称されるに相応しい出来となっていて何回聞いても鳥肌が立ってしまう。冒頭から目まぐるしく展開する「Sky Above」や鍵盤ハーモニカまで飛び出す「It Don't Matter」、The Beatlesのカバー「Here Comes the Sun」からSteve Vai先生とセッションする「Do You Feel Love」まで、ジャズや民族音楽のエッセンスも取り込み溢れ出てくるアイデアを詰め込んだ素晴らしい一枚。NPRの人気企画Tiny Desk Concertでのライブアレンジも素晴らしかった。

Djesse, Vol. 2

Djesse, Vol. 2

 

33.Brooke Candy「Sexorcism」
[UnitedStates, HipHop]
ホームレスのストリッパーを経てPornhubと共同でポルノ映画を監督するなど異色の経歴を持つラッパーによるデビュー作。Boys NoiseプロデュースのFuck me upをひたすら連呼する「FMU」、基本的に歌詞がPussyから始まる「Drip」、Charli XCXをゲストに迎えた「XXXTC」など一曲一曲の癖がすごいことになっているが、セクシャリティやセックス・ポジティブさを前面に出しつつどれもフックがきいていて次世代ダークポップアイコンになる予感も匂わせる。しかし何回みてもジャケットのインパクトがすごい。

Sexorcism

Sexorcism

  • Brooke Candy
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1528

 

32.LOOΠΔ「[X X]」
[Korea, Pop]
BlockBerry Project所属のガールズグループLOONA (今月の少女) リパッケージアルバム。毎月1人ずつメンバーを公開し12人の完全体となって初のリリースとなった本作は、高い音楽性から韓国外の支持が多いのも納得のクオリティ。MVにもなっている「Butterfly」はサウンド面もさることながら個性的なダンスパフォーマンスに引き込まれる。メロウな「Satellte」やGroovyRoom「Sunday」同ネタの「Colors」などなど本当に全曲素晴らしい。はやくも日本デビューの話が出てきていたりと要注目のグループ。

[X X] - EP

[X X] - EP

 

31.TOCCHI「Swings」
[Japan, Pop/Rap]
唾奇が「これだけで十分なのに」をピックアップしたことでも話題を呼んだシンガーによる1stEP。拠点を北海道から沖縄604に移し広がった音楽性と人間関係を謳歌するような「Have Plans」を筆頭に同クルーからHANGとRAITAMENも参加。showmoreやSoulflexのメンバーもフォローした「Swing (feat. 唾奇)」でのピースフルなサウンドは、素晴らしいラップを乗せた唾奇に引けを取らないリリカルさに引き込まれるし、EP通して604に来たことの喜びに満ちていて清々しい。

Swings

Swings

  • TOCCHI
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1375

 

30.NU'EST「Happily Ever After
[Korea, Pop]
Pledisエンターテイメント所属の5人組による6thミニアルバム。メロウなフックが心地よい1曲目の「Segno」はライブだと口上が入ってて驚いたが、現行色強い「Talk about love」、ディープハウス調な「Different」、MVにもなったアッパーな「BET BET」などなど高い楽曲完成度とWANNA ONEを経てからの再始動ということもあり再ブレイク。彼らのブレイクによる影響かは定かではないが同レーベルのPRISTINが解散してしまったのは本当に残念。

 

29.BOYCOLD「POST YOUTH」
[Korea, HipHop]
Sik-Kの同名アルバムプロデュースでも知られているYellows Mobのプロデューサーによる1st EP。タイトル通り青春の愛をテーマにしたというこのアルバムは、 H1GHRのHAONにYellows MobのCoogie、「My Land」が賛否を呼んだBeWhyという豪華メンバーを集めた上にビートも最高な「YOUTH!」や先述したSik-Kゲストの「Stupid Twenty」を筆頭にpH-1など韓国ラップの中心メンバーを揃えた充実作。GroovyRoomに続いて欲しい。

POST YOUTH

POST YOUTH

 

28.JUBEE「Mass Infection」
[Japan, HipHop]
CREATIVE DRUG STOREのラッパーJUBEEによる2年ぶりのEP。先行シングル「Noise Surfer Mind」「Blue Zone」のビジュアルやフロウもワードチョイスもデジタルミクスチャーをオマージュするアプローチにニヤけてしまったが、本作収録の「Morning Dew」では00年代オルタナまで取り込みはじめていて最高すぎる。CDSからBIM、VaVaと流れが来ているのでJUBEEも続いて欲しい。

Mass Infection - EP

Mass Infection - EP

  • JUBEE
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥917

 

27.Mayfield「Careless Love」
[Canada, MelodicHardcore]
Dreambound所属カナダの叙情派ニュースクールバンドによる1stフル。様式美的叙情派サウンドを踏襲しながらも、前EP「Hollow Embrace」を超える熱量でシャウトとクリーンが交錯する手に汗必至な悶絶作。序盤からストップ&ゴーで揺さぶる「Do You Miss Me?」「Recovery」、そして先行シングル「My Heart Gets Left Behind」「Torn」「Blossom」からインスト「The Missing Piece」まで畳みかけ、ラストの感動作「Careless Love」まで一気に駆け抜ける素晴らしい一枚。

Careless Love

Careless Love

  • Mayfield
  • メタル
  • ¥1375

 

26.YOSA & TAAR「Modern Disco Tours」
[Japan, Dance/Electronic]
渋谷VISIONの人気イベントMODERN DISCOのレジデント2名による共同プロジェクト。先行配信されていたSIRUPとの2ステップ「Fever」が素晴らしすぎて期待値が上がっていた1stだが、同じく先行配信されていた「Slave of Love (feat. 向井太一 & MINMI)」、福岡AttractionsのTaroをゲストに迎えた「Perfect Fire」、ラスト曲「HIKARI (feat. 踊Foot Works)」まで豪華ゲストを迎えつつあくまで現場を意識したような素晴らしい内容に。タイトル通りMODERN DISCO地方開催などやってくれないかなと期待。

Modern Disco Tours

Modern Disco Tours

  • YOSA & TAAR
  • エレクトロニック
  • ¥1833

 

25.NF Zessho x Aru-2「AKIRA
[Japan, HipHop]
福岡市早良区出身のラッパーNF ZesshoとボーカルプロジェクトNotologyのアルバムも話題のAru-2によるタッグ作。オーセンティックで心地よいビートにゆるっとしたボーカルを乗せるAru-2に対して、ストイックにラップを繰り出す絶招の対比もおもしろいこの作品。やはり絶招の言葉の力に引っ張られ歌詞を追いながら聞かなければならないという思いにさせられる。MVにもなっている「All Friends」では "他人を否定するたびに生きづらくなって 他人を肯定するたびにBitchになる" "死にたいと思える夜はやけにありきたりで そして今日も無事に過ぎていく" と綴り、ネタ使いと相まって気持ちいい「I Give」では "この日々は螺旋 いつか天に昇るまで愛せるか生 雲を超えたあとはどうせ嫌でも快晴" などと日常から飛躍し普遍的なメッセージにまで到達、「Get High」でのリリカルな締めまでのラスト3曲が本当に素晴しかった。

AKIRA

AKIRA

  • NF Zessho x Aru-2
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1833

 

24.踊Foot Works「GOKOH」
[Japan, HipHop]
ヒップホップともポップの間を行く絶妙なバランスのサウンドで一気に駆け上がった4人組の2ndフル。中盤で過去へ跳躍し現在へ戻ってくる展開もクールな「PRIVATE FUTURE」や先行リリースされていた「GIRAGIRA NEON」を筆頭に、Tempalayのエイミーをゲストに迎えた「髪と紺」、Instagramが超映える全員ボーカル曲「SEASONS」などなど相変わらずフックの完成度が高すぎて唸らされる 。コンスタントにリリースしつつlyrical schoolへの曲提供など活動の幅が広がっている彼ら、もっと売れていい。

Gokoh

Gokoh

  • 踊Foot Works
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2241

 

23.Kindness「Something Like A War」
[UnitedKingdom, Indie/Dance]
ロンドンを拠点とするプロデューサーによる3rdフル。ハウスとソウルをクロスオーバーしたサウンドが中心になりつつある昨今のシーンを象徴するようにさらにディスコにジャズまでも盛り込んだ一枚。ゴスペルハウスライクな「Raise Up」、サックスを絡ませつつソウルフルに展開する「Softness As a Weapon」、Kelelaとの共同作「Lost Without」にSamphaも参加した「Hard to Believe」といった豪華ゲストもバックアップした快作。

Something Like a War

Something Like a War

  • Kindness
  • R&B/ソウル
  • ¥1528

 

22.Shurkn Pap「The ME」
[Japan, HipHop]
姫路の8人組クルーMaisonDeのラッパー手裏剣パプによる1stフル。「Road Trip」や「Sweet Dreams」など多彩なサウンドアプローチに定評のある彼だが、本作でも序盤にエレクトロなアッパー曲「HIGH-CLASS PAP PT2」「PUMA」「DIVE」を並べ、現行バンドサウンド色強い「十人十色」「GOLDEN TIME」「晴れた日くらいは」、終盤のメロウ路線まで多彩なサウンドで楽しませてくれる。約半数のプロデュースを手掛けるKNOTTはDa.Iによるユニットというのも発覚し懐かしい名前に驚いた。周囲への感謝を述べつつ誰かにとってのクラシックになればいいとラップする冒頭からNEW CLASSIC然としてて良い。才能ある人材にお金を落としたら、より素晴らしいものが生まれるの好例。

The ME

The ME

  • Shurkn Pap
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2444

 

21.野崎りこん「Love Sweet Dream LP」
[Japan, HipHop]
元電波少女のメンバーでOMSBが注目したことでも知られているネット界の異端児こと野崎りこんの2ndフル。唐突でユーモアあるネームドロップで笑わしに来たかと思えば、歪曲した自らのコンプレックスをぶちまけ、物語を切り取ったノスタルジックな風景描写をみせたりと りこんらしさ/ネットラップらしさが詰め込まれた快作。吉沼によるシリアスなビートの「ナイト・ダイブ」、"きのこ帝国とDOOM (MF DOOM )を配合" というラインも印象的なネームドロップ曲「Yo」(トラックは釈迦坊主)、終盤のRhymeTubeによる現行メロウな「Lucy Lucy」~リアルな自己言及「Out of the Loop」までネットラップの人脈をフルに活かした楽曲を並べる。衝撃を受けた「ハッピーエンド。」からもう8年、バカにされがちだったあの頃の空気をそのままにネットラップの本気を見せつけてくるのは痛快。

Love Sweet Dream LP

Love Sweet Dream LP

  • 野崎りこん
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2139

 

20.Floating Points「Crush」
[UnitedKingdom, Electronica/DeepHouse]
Ninja Tune所属のプロデューサー/DJフローティング・ポインツによる最新作。初期衝動を取り戻して制作されたという本作は先行公開された「Last Bloom」や、PitchforkのBest New Trackに選出されたダンサブルな先行曲「LesAlpx」~「Bias」~「Environments」の流れが素晴らしく、後半に向かうにつれアンビエントさを増していく展開も心地よい。リリース後各紙で絶賛される中、いち早く彼を招致したNF in MIDNIGHT SONICのアンテナに驚く。

Crush

Crush

  • Floating Points
  • エレクトロニック
  • ¥1528

 

19.ゆいにしお「角部屋シティ」
[Japan, Pop]
名古屋の現役女子大生SSW。柔らかい歌声と春の涼しさを感じるサウンドがとても心地よい。物心ついた頃には渋谷系終わってた世代の渋谷系「スピーチレス」、現行のモードを踏襲した「DAITAI」、歌詞が特徴的な失恋ソング「マスカラ」、そして先行カットされていた「帰路」までシンプルに良い曲が詰め込まれた良作。自分は良い曲だけを作ってあとはファンに頼んだと投げるスタンスもおもしろい。J/GのTシャツを着ていたことで存在を知った彼女、もし彼がインターネットにまだいたなら彼女の曲をカバーしてサンクラに上げていただろうなと思う。

My Corner Room and City - EP

My Corner Room and City - EP

  • ゆいにしお
  • J-Pop
  • ¥1222

 

18.Tempalay「21世紀より愛をこめて」
[Japan, Alternative]
BTSのRMが「どうしよう」をピックアップしたことでも話題の3人組による最新作は彼らの特徴でもある中毒性あるサイケデリックポップの一つの完成系に。イントロ的1曲目からなだれ込むリード曲「のめりこめ、震えろ。」から、メンバー藤本夏樹に第一子が生まれたことと映画ソナチネをインスピレーションにできたという「そなちね」の流れで一気に持っていかれる (今となってはサ道の曲だが)。正式加入したエイミーとのツインボーカルで色々なものに規制がかかることへの憤りを込めたという「脱衣麻雀」、前EPから「THE END」「SONIC WAVE」も収録しラストは感動的な「おつかれ、平成」で締める。少し癖のあった今までの作品に対して本作は大きく外へ開けているし、あの頃が革命前夜なら本作で革命開始か。

 

17.SNJO「Diamond」
[Japan, Dance/Electronic]
島根県出雲のネットレーベルLocal Visionsの若頭ことSNJO (シンジョー) の2ndフル。街からの脱出を描いたというこのアルバムはダンサブルな表題曲から、Foster The Peopleを意識したという「Alive」、宅録作家mukuchi (feather shuttles forever) をゲストに招いた「Cyber Attack」まで幅広くキャッチーな曲が揃う。Local Visionsは今年松木美定やTsudio Studioのアルバムもリリースし今もっとも勢いのある国内ネットレーベルと言っても過言ではない活動っぷり。

 

16.Madeon「Good Faith」
[France, Dance/Electronic]
フランスのプロデューサーMadeonの2ndフル。3年ぶりにリリースされた新曲「All My Friends」を筆頭として、軽くエフェクトがかったボーカルに柔らかく美しいサウンドを展開するマデオンらしさは健在。ゴスペル使いもみせた「Be Fine」やピアノ/ストリングスを用いたドラマティックな展開も素晴らしい「No Fear No More」など3年待たされただけある一枚。来年1月の来日公演も行けないか調整中……。

Good Faith

Good Faith

 

15.君島大空「午後の反射光」
ドラムサポートに石若駿を迎え、CRLK/LCKSの所属レーベルApollo Soundsからという万全の体制でリリースされた君島大空の1st EP。90年代後半シューゲイズ/オルタナ感ある邦ロックをサイケに混ぜ合わせ、とけそうなほど儚げに歌われる陰を含んだポップソングは、直接降り注ぐ光ではなくイメージとしての反射光というサウンドスケープが広がる。「遠視のコントラルト」は今年を代表する一曲。続くシングル「散瞳」ではメルヘンポップに近いキャッチーな明の部分をさらけ出し、サイケだけではない幅の広さもみせつけた。

 

14.松木美定「主観」
[Japan, Pop]
ジャズをベースにしたサウンドにキャッチーなメロディとユーモアある歌詞が話題となり一気に注目株となった松木美定 (まつきびてい) による3曲入りデビュー作。「シゴトップス」の自堕落な欲望は誰もが共感しわらってしまうだろうし、"言うなれば 人生は有機物" という歌詞も印象的な「実意の行進」は刻み続けるドラムとピアノが終盤に向かいセッションのように高揚感を煽っていく。ラストの独自の価値観がユニークな現行ポップス「主観」までフルレングス作を期待させるには十分の内容。参考元楽曲をブログで公開しているのもおもしろい。2019年は長谷川白紙の草木萌動を超えるところから始まると以前書いたことがあるが、彼らを中心に君島大空やMON/KUや浦上想起など新たな才能が止まることなく現われて来ているし、もうすぐにでもシーンが入れ替わるのは確実。

 

13.Shrezzers「Relationships」
[Russia, ProgressiveMetalcore]
ロシアの最終兵器Shredding Brazzers改めShrezzersのデビューアルバム。3年前プログメタルコアにサックスパートをぶっ込んで来た「Mystery」で一気に注目された後、「Vivacious」「Spotlight」「E.M.O.J.I.Q.U.E.E.N.」といった多数のシングルを経た上での集大成的一枚。Djent以降のプログレッシブな展開と突如ドラマティックに空気を一変させるサックスパートを武器に構成されるが、「Knuckles」でのスクラッチ&ラップパート、「Anaraak」では北欧ライクな民族音楽テイストも取り込んだりと、意図して実験的なアプローチをみせる。ポストハードコアとして実験的なサウンドを構成しつつジャンルを超えてアプローチできるキャッチーさを兼ね備えたバンドはIssues以来のように思う。来日ツアーも大盛況に終わったが直後に発表されたボーカル脱退のニュースは本当に残念。

Relationships

Relationships

  • Shrezzers
  • ロック
  • ¥1528

 

12.Bring Me The Horizon「amo」
[UnitedStates, Metalcore]
失恋したショックで右腕をタトゥーで塗りつぶし真っ黒になったオリバー率いるBMTHの4年ぶりの6thフル。初期のデスコアはどこへやらなオルタナサウンドへシフトして大成功した前作「That's The Spirit」のテイストを引き継ぎつつ、本作では現行エレクトロなどを取り込みまたもや大成功。オルタナ感満載な先行曲「MANTRA」から最高だが、Grimesや元The RootsRahzelとのコラボといったサプライズを用意しつつ全編シングルクラスな楽曲完成度で持っていく (特に「medicine」~「mother tongue」の中盤が素晴らしい)。大阪での単独公演もスタジアムバンドの貫禄あるパフォーマンスで素晴らしかった。

amo

amo

  • Bring Me The Horizon
  • ロック
  • ¥1630

 

11.小袋成彬「Piercing」
[Japan, Electronic/Soul]
2019年末に凄まじいアルバムが出てきた。 前作「分離派の夏」を宇多田ヒカルがプロデュースしたことでも話題を呼んだシンガー/プロデューサーによる2ndフル。ピアスを空けるようなノリでやりたいことを友達を集めてパッとやったという本作、そうは言いつつもBGMとしてはとても機能しそうにない息をのむような曲が詰め込まれている。本職はSEというラッパーKenn Igbiと共作した 「New Kids」での彼のボーカルが入った瞬間に開ける展開は本当に素晴らしいし、 N.O.R.K.時代を彷彿とさせるような「Down The Line」、友人を呼び込んだ勢いでラフに録ったような「Bye」、Tohjiの自己紹介ソング「Tohji's Track」に5lackとの「Gaia」までエポックメイキングな一枚。2020年はまずこのアルバムを超えるところから始まる。

Piercing

Piercing

 

10.BROCKHAMPTON「GINGER」
[UnitedStates, HipHop]
テキサスのラッパーKevin Abstractを中心にKanye Westのファンサイトで出会ったメンバーにて結成された14人組コレクティブ (彼ら的にはボーイ・バンド) による5th。人間の弱さがテーマというジャケットが表しているようにKevin Abstractのセクシャリティ性的虐待の疑惑から脱退したAmeer Vannについてなど内省的な内容が綴られた一枚に。先行公開された「DEARLY DEPARTED」が特に象徴的だが (SUBLYRICSに和訳が)、そういった面を除いても「SUGAR」「NO HALO」を筆頭にメロディアスなサウンドを中心に据えたアルバムはとても聞きやすい。Kevin Abstractのソロ作も素晴らしい内容だった。サマソニでの来日公演に行かなかったことが悔やまれる。

GINGER

GINGER

  • BROCKHAMPTON
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1630

 

09.Kan Sano「Ghost Notes」
[Japan, Electronic]
origami PRODUCTIONSのプロデューサー/キーボーディスト/マルチプレイヤーによる2年半ぶりの新作。現行トレンドでもあるLo-Fi Hip Hopなどを取り込みつつ彼のルーツであるネオソウルを再解釈したというこのアルバム。ライブでもラストに披露されていた美しい「Stars In Your Eyes」やダンサブルな「My Girl」「Don't You Know The Feeling?」を筆頭とする歌ものが特に素晴らしいが、TOKYO SOUNDSでの1人即興動画も話題となった「DT pt.2」とそこからシームレスに続く美しいピアノ曲「Sit At The Piano」がハイライト。先日のリリースライブでもマルチプレイヤーっぷりを発揮する即興だらけの構成となっていて本当に楽しかった。

Ghost Notes

Ghost Notes

  • Kan Sano
  • R&B/ソウル
  • ¥1833

 

08.JPEGMAFIA「All My Heroes Are Cornballs」
[UnitedStates, HipHop]
ボルチモアのラッパーによる3rdフル。100 gecs等を筆頭に盛り上がるオルタナティブなラップミュージックとしてひとつの完成形。コラージュを重ねたサウンドはノイジーで混沌としているのにメロウで非常に聞きやすい。2分半で目まぐるしく展開する1曲目「Jesus Forgive Me, I Am A Thot」から圧倒され、先行カットされた「Beta Male Strategies」の途中から入ってくるギターや謎にTwitterに言及する歌詞もおもしろい。全18曲と少しボリューミーにも感じるが、アルバムを聞くというよりはミックスされた長い1曲をずっと聞いているような感覚。

All My Heroes Are Cornballs

All My Heroes Are Cornballs

  • ジェイペグマフィア
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥1935

 

07.Holding Absence「Holding Absence (Deluxe Version)」
[UnitedKingdom, MelodicHardcore]
SharpTone Records所属ウェールズ出身のポストハードコアバンドによるデビュー作。Loatheとのスプリットでも知られている彼ら、序盤「Perish」「Your Love (Has Ruined My Life)」「Like a Shadow」の畳み掛けから始まり、美しいピアノバラード「Marigold」、Live MVでは会場全ガロングな様子もみえる「Monochrome」などなどが続くが、Deluxe版で追加された新曲「Here Forever」が本当に素晴らしい。叙情性を中心に添えつつスタジアムクラスのシンガロング風景も目に浮かぶ普遍的でエモーショナルなメロディ。次世代UKバンドNo1との呼び声も高い彼ら、最後にこんな曲を用意してくるなんて今年のシーンは彼らの年だったと言わざるをえない。

Holding Absence (Deluxe Version)

Holding Absence (Deluxe Version)

  • Holding Absence
  • ロック
  • ¥1681

 

06.舐達麻「GODBREATH BUDDHACESS」
[Japan, HipHop]
熊谷のヒップホップクルーによる2ndフル。実体験に基づくハードな歌詞とGREEN ASSASSIN DOLLAR / 7seedsによる美しいビートとのギャップで一気に注目された彼ら。「LIFE STASH」の "おれは輩とは違うラッパーだクソ野郎 たかだか大麻ガタガタぬかすな" や、金庫強盗からの逃走中に亡くなったクルーの1.0.4. (トシ) について語られる「FLOATIN'」の冒頭 "バール買いに行かせた今藤 仕事バックレた高橋 借りに行かせた武富士 中古屋事務所外 裏口 見てわかる金庫の場所" などインパクトの凄まじいラインが並ぶが、「GOOD DAY」ではDELTA9kidがビートと共鳴するリリカルな一面をみせたりとハードなだけではないアプローチも。オンラインではとても言えないことばかりが飛び交うというライブもいずれ観てみたい。今藤のインパクトがなければここまで彼らの曲を聞いていないと思うので今藤が一番の功労者か。

GODBREATH BUDDHACESS

GODBREATH BUDDHACESS

  • 舐達麻
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2444

 

05.Charlotte is Mine「IN SOMEWHERE NIGHTS」
[Japan, Indie]
東京の男女2人組バンド シャーロットイズマインによる1stフル。ドリームポップ色強い幻想的な「Somewhere」からエモーショナルに夜明けへと向かう「Moon at Morning」へ着地することがあらかじめ決められて奏でられる曲達。前半の清涼感ある「Swirling」「Polaris」といった曲から、後半のエモーションが爆発する「night night, sleep tight」「absent」といった曲まで、エモ/シューゲイズ/USインディからの影響を落とし込んだサウンド、幻想的で透明感あるハイトーンと力強い低音まで多彩に表現するボーカル、アルバム一枚としての物語を感じさせる構成まで文句なし。メンバー脱退によりまたソロプロジェクトとなってしまったようだが新曲「in your room / belarus」が相変わらず素晴らしくて不安を消し去ってくれた。

 

04.Dos Monos「Dos City」
[Japan, HipHop]
yahyel、向井太一らとの交流も深い荘子it擁する3人組によるデビューアルバム。Thelonious Monk「Brilliant Corners」を大胆にサンプリングしたかけ合いラップ「in 20XX」の権利問題でリリースが遅れただけにハードルが上がっていたわけだがそれを軽く飛び越えた。ジャズを再構築しインテリジェンスを感じる独特のワードチョイスでラップを乗せるスタイルはコラージュにも近い遊び心に満ちている (その辺は自らをもうひとつのシティポップと名乗るインタビューを)。特に序盤「劇場D」~「Clean Ya Nerves」までの流れはどクラシックを予感させたし、初めてSIMI LABを聞いたときと同じ衝撃を受けた。

Dos City

Dos City

  • Dos Monos
  • ヒップホップ/ラップ
  • ¥2037

 

03.NOT WONK「Down the Valley」
[Japan, Indie]
KiliKiliVillaからcutting edgeに移籍した苫小牧の3人組による3rdフル。このアルバムのきっかけとなったであろう前作収録の「Of Reality」で提示したパンク/エモとソウルの親和性を、無骨ながらも美しいNOT WONKの音へと落とし込み作り上げた傑作。先行公開されていた「Down The Valley」は本作の方向性を象徴する素晴らしい1曲だし、7インチ収録の2曲を統合した「Count / Elation」の焦燥感とエモーションは否応なく聞き手の心を揺さぶってくる。1stアルバム「Laughing Nerds And A Wallflower」から4年、ここまでの素晴らしい作品を作るバンドになるとは思っていなかったが、すべてを東京が動かす訳ではないこの状況でYour Nameなどのアプローチを含め地方のインディ/オルタナティブなバンドがおもしろくなるというのは彼らが一番自覚しているだろうなと。

Down the Valley

Down the Valley

  • NOT WONK
  • ロック
  • ¥1681

 

02.in the blue shirt「Recollect the Feeling」
[Japan, Electronic]
自主レーベルからリリースとなった京都のトラックメイカー有村崚の2ndフル。Spliceのサンプルボーカルをカットアップして再構築する手法で作られたサウンドは、言語化できないボーカルが新たなメロディを生み出していて同ネタ使いトラックメイカーの中でもひとつ頭が出たように感じる傑作。個人的に今年一番聞いた曲「Cast Off」や「Good Feeling」の美しさは言うまでもなく、バンド編成での「Fork in the road」など新しいアプローチも入れつつソウルネタ風な「Riverbed」で締めるところも心地よい。DTM交流会POTLUCK Lab.やstruct主催のゆパ交流戦などアリムラやパ音周辺には本当に楽しませてもらった。

Recollect the Feeling

Recollect the Feeling

  • in the blue shirt
  • エレクトロニック
  • ¥1528

 

01.Billie Eilish「WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?」
[UnitedStates, Pop]
今年は彼女の年だった。LA出身18歳のSSWビリー・アイリッシュによる化け物デビューアルバム。彼女の存在を知った「bury a friend」は、SoundcloudラッパーらによるEmo Trapや自身も楽曲提供したドラマ13の理由など現在のティーンにまとわりつく憂鬱を埋葬することがテーマとなっていて、MVの世界観とメッセージ性含めトピックスに溢れた楽曲だった。この音域の低さでライブではアッパーになるのかと驚いた「bad guy」は各所で流れまくっていて今年を代表する一曲となり、xanax絶ちを表明する「xanny」や「you should see me in a crown」での凶悪なサブベースは鳥肌が立つ。さらにうまくいかない恋に対してあなたがゲイだったらいいのにと嘆くキャッチーな「wish you were gay」のような曲まで揃えていて驚愕する。サウンド的なおもしろさもありつつティーンの代弁者/ファッションアイコンという意味でもすでに2020年を代表するアーティストとなることが約束された彼女。Soundcloudでバズを起こしたことがきっかけでデビューし、友人であるXXXTentacionの死に追悼の意を表しfriendとして楽曲に登場させたりと、彼女は圧倒的な才能を持ったSoundcloudラッパーの流れと解釈するのが正しいような気がするし、頭の固い大人からは疎まれがちだったSoundcloudラッパーのひとつの到達点のようにも思える。何にせよ2019年以降の音楽は彼女の存在なしには語れなくなってしまった。