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Memo.57 (#Especia_bests)


10.アバンチュールは銀色に

あの頃インターネットの住人でHi-Hi Whoopeeを見ていなかったのはごく僅かだろう。誰もが聞き手主導によるムーブメントVaporwaveという波に乗りたいと思っていたが、日々加速し音楽と呼べるのかわからなくなっていくそれは解釈の難しいものだった。HHWにて取り上げられたアバ銀のMVは雑多にコラージュされた映像とサウンドがうまく混ざり合い、Vaporwaveという地下のムーブメントを地上へと昇華した。その後もアートワークやVJなどに引き継がれ、PitchforkにてJapanese vaporwave idolsと評されるまでに至る。80年代のオマージュと言われていた彼女たちの存在をこの時代のものとして捉えられるようになったのはこの曲の影響だろう。本当の意味でインターネット世代のアイドルとなれたのは彼女たちだけだった。


09.FOOLISH(12" Extended Ver)
数多くのリミックスの中でもっともオリジナルを差し置いて披露された曲。Primeraの次の一手は90年代リバイバルに対する彼女たちなりの回答。アバ銀のHouse化とともに80年代からの明確な時系列の移動を提示した (ただその次のAviator / Boogie Aromaで期待を裏切られたことも事実)。


08.Mistake
コンテクストにまみれた彼女たちの曲でもこれほど余計な説明が不要なものはない。第一章サウンドの完成形であるとともに、その終わりとともに語られることになってしまった一曲。パーティーの最中から魔法が溶けていくまでを描くこの曲は素晴らしいがゆえに切ない。


07.くるかな
E5peciaと称されるように全国ツアーからメジャーデビューへと激動の日々が続いた5人時代が素晴らしかったという声は確かに多い。しかしこの曲に関してはE6pecia時代を最終的に超えられなかったと感じている。あの子がステージで歌う姿を観たのはこの曲が最後だった。脱退が決まっていたあの子は相変わらず不器用にはにかみながらステージ上でキラキラと輝いていた。


06.海辺のサティ
#Especia_bestp を選ぶならこの曲以外考えられない。2014年2月1日、初めて観た彼女たちのライブは約10分のVexation Editから始まった。2016年6月25日、彼女たちの第二章は彼女のピアノから始まった。この曲はいつも新たな何かの始まりを感じさせてくれる。地元のショッピングモールでこの曲を聞いたあの日からすべてが変わった。


05.ミッドナイトConfusion
彼女たちとの出会いの曲。当時はベタな80年代オマージュというイメージでおもしろいとは思いつつも他の曲を聞こうと思うほどには刺さらなかった。しかしライブで数えきれないほど聞いていく内に出会いの曲として特別な感情が湧いてくるように。 オリジナルよりもNJSなmuzi9uest Remixの方をよく聞いていたが、意外なかたちで本人と遭遇した大阪の夜を今でも覚えている。


04.Helix
誰もが第二章についてハードルを高く設定していたが、それを軽く飛び越えて改めて追いかける価値のある存在だと再認識させてくれた一曲。Robert Glasper以降のモードに現行トレンドを混ぜ込んだサウンドは国内音楽シーンにおいても明らかに早すぎた。これ以降改めてJazz The New Chapter周辺のサウンドを聞くようになった。いつもきっかけをくれるのは彼女たちだ。


03.Over Time
この曲を聞くと新木場からビレボアまでの日々を思い出す。いつこの歌詞が書かれたのかわからないが、Mistakeと同様に魔法が溶けて白く消えていく様を描いた一曲。あの頃みたいに毎週どこかへと飛び回るなんてことは今後もうないのだろう。あの子はステージへと帰ってきたのにあの頃みたいに飛び回ってまで追いかけようとは思えない。好きな曲を好きな歌い手がうたうということは思っているよりも奇跡的なことなのだと知る。


02.パーラメント
セレクトした10曲中唯一彼女たちの存在を知る前にリリースされた曲。すべてにおいて完璧。2013年にこんな曲を作り上げたSchtein&Longerはやっぱり天才だと思う。もっと早く彼女たちに出会っていればというきりのない後悔が残る。


01.アビス
多くの人に愛され多くの人を繋げた曲。GUSTOリリース前のUSTREAMでこの曲を聞いて梅田クアトロへ行くことを決めた。定番となったトワイライト・パームビーチからの流れは何度聞いても鳥肌が立つ。生誕でのピアノ弾き語りはアコースティックライブという新たな可能性を感じさせた。Ikkubaru来日時のセルフカバーでイントロを口ずさむペシストにメンバーは笑みを浮かべていた。リスペクトに溢れたCICADAのカバーには感謝の気持ちしかなかった。もう聞けないと思っていた解散ライブの1曲目でこの曲が流れたときには目の前の景色が歪んだ。


あれから少しだけ経って、それぞれがそれぞれの生活を続けている。終わったと思ったらまた彼女たちが現れて、本当に終わったのかよくわからなくなってしまうけれど、Especiaをこれからもよろしくお願いしますという彼女の言葉が胸に刺さったまま抜けていない。忘れないよと言うだけなら簡単だが、そう遠くない日にEspeciaという言葉がインターネットでも飛び交わなくなる日は来るのだろう。ただそれまでは、もう少しだけ名残を惜しませてほしい。Especiaというぼくの人生を変えたグループがいたことを。